公開講座活動報告
法人・団体名 一般社団法人 Fumi Horiguchiウィメンズヘルス研究所
テーマ:断ち切ろう、暴力の連鎖 -健全な子育てと地域での予防教育-
講 師:本田朋子(モナッシュ大学 非常勤研究員)
加茂登志子(東京女子医科大学教授)
開催年月日:平成28年4月23日 午後1時~4時
会場:文京学院大学本郷キャンパス 東京都文京区向丘1-19-1
講演概要
「断ち切ろう、暴力の連鎖 –健全な子育てと地域での予防教育」をテーマに市民公開講座が一般社団法人Fumi Horiguchiウィメンズヘルス研究所の主催で開催された。近年、女性や子どもへの暴力の健康への影響は甚大で深刻な問題となっており、2013年WHOは世界全体の女性の3人に1人が身体・心理・性的な暴力を経験していると報告した。暴力の原因は単一で規定することは難しく、個人、関係、地域、社会といった4つの側面(エコロジカルモデル)が複雑に交錯している問題と捉えられている。今回は地域や社会的側面からの予防教育と、個人および関係の側面からの予防に関しての2つに分けて2人の講師に講演していただいた。
講演1はUN womanで調査研究をされた本田朋子講師から「効果的な地域の予防教育とは?グローバルエビデンスを通して」と題して、世界的レベルでの暴力に関する調査方法とその結果を紹介された。最初に暴力の定義と疫学的発生率、調査法による結果の偏りの説明があった。後半は具体的な地域での取り組みのうちの予防教育として、オーストラリアメルボルンCASA(Centre Against Sexual Assault)ハウスの取り組み、中でも中学生を対象とした予防教育プログラム:SAPPSS(Sexual Assault Prevention Program for Secondary Schools)が紹介された。その次にウガンダの取り組みSASAが紹介された。SASAとはスワヒリ語で今を意味し、そのイニシャルは(Start, Awareness, Support, Action)をモットーに女性への暴力をHIVエイズとの関連で予防する取り組みで、その有効性も示された。最後に暴力予防のためのグローバルキャンペーン、2015年5月のWHO Milestone Meetingの報告もされ、以下の3つの提言を紹介した。1、エビデンスに基づいて複数の分野に対応した国家活動計画を作成し実施する。2、知識のギャップを埋めるために、研究と評価の質の向上を支援する、3、国連機関、市民社会、女性活動団体の協働を強化する。
講演2は加茂登志子講師から「家庭内暴力を受けた母子への効果的な養育支援~親子相互交流療法PCITの経験から~」と題して、暴力の個人や関係への影響を今度は個人レベルから母子関係に注目して講演していただいた。典型的な症例をモデルケースとして提示し、子どもの成長と母親の精神状態の変化、それにともなう子どもの精神状態や社会性の変化を細かく、母親の言葉も用いて説明してもらった。その後、暴力被害者の精神状態を詳細に解り易くご自身の研究結果を用いて説明された。後半は暴力予防として、暴力被害を受けた母親が暴力の加害者とならないような育児サポートとして親子相互交流療法(PCIT :Parent-Child Interaction Therapy) が紹介された。PCITとは、子どものこころや行動の問題に対し、親子の相互交流を深め、その質を高めることによって回復に向かうように働きかける行動学にもとづいて心理療法である。 子供との遊びの会話の中で、命令、質問、および批判しないこと、賞賛、繰り返し、まね、行動の説明、楽しむことによって関係性が増すことを教えていただいた。そして親リードのしつけ方も教示された。(www.pcit.org http://pcit-japan.com/ )
2つの講演とも活発な質疑応答がされた。講演後のアンケート調査によると、出席者は15歳~80歳代で20代~40代が8割であった。男性は1割弱、職業は、学生、教育機関、医療・福祉関係者が多かったが行政機関からの出席もあった。感想では大変良かった、よかったが多く、自由記載欄では20名近くの方から、ここにすべて記載できないが、詳細な感想をいただいた。この結果を検討し今後の活動につなげたい。